「ほかに道はない」 そう思い込んでいるときほど、 視界は狭くなっている。 本当は選べることがあっても、 選べないように感じてしまう。 人を縛るものは、 鎖そのものではなく、 鎖しかないと思い込む心なのかもしれない。
若いころは、 お金がいちばん大事だと思っていた。 評価や実績だと思っていた人もいるだろう。 けれど歳を重ねるにつれて、 何を持っているかより、 誰と時間を過ごしたかのほうが 心に残るようになる。 時間は使うものではなく、 […]
苦しいと感じているのに、 そこから離れることが いちばん怖いことがある。 扉の向こうに何があるかわからないからだ。 慣れ親しんだ痛みは、 自由より安心に見えることがある。 けれど、 息苦しさに慣れることと、 安心している […]
歩いていると、 考えても仕方のないことが 少しずつ身体の外へ出ていく。 答えは見つからなくても、 風の向きや空の色を見ているうちに、 問いとの付き合い方が変わることがある。
洗濯物を干していると、 暮らしとは、 こういうことなのだと思う。 大きな答えはなくても、 乾いていく布のように、 少しずつ整っていくものがある。
植物を眺めていると、 急がなくてもいいのだと思う。 花を咲かせる日もあれば、 根を伸ばす日もある。 目には見えなくても、 育っている時間がある。
夜道を歩くのが好きだ。 昼間は見えなかったことが、 暗くなると見えてくる。 考えすぎていたことも、 歩いているうちに 身体の後ろへ置いてこられる。
古本屋が好きだ。 誰かの人生を通り過ぎてきた本が 静かに並んでいる。 読み終えた人と、 これから読む人。 そのあいだを本が 黙ってつないでいる。
私は図書館が好きだ。 そこには、 近すぎず、遠すぎない距離がある。 誰も誰かを支配せず、 誰もひとりにされていない。 森や海にいるときに感じる、 あの静かな安心に少し似ている。 本に囲まれながら、 自分の輪郭を取り戻せる […]
駅が好きだ。 たくさんの人がいるのに、 誰も私を知らない。 どこかへ向かう人々の中にいると、 人生はまだ続いていくのだと、 少しだけ思える。