家族のために
家族のために生きてきた人がいる。
振り返ると、それは特別な覚悟というより、
いつのまにか「当たり前」になっていた。
誰かの役に立っている間は、
自分の気持ちを後回しにしても、
それなりにやっていけた。
忙しさや責任が、
考えなくていい理由になってくれていた。
でも、あるとき。
ほんの一瞬、立ち止まっただけなのに、
彼は自分の胸の奥が
静かすぎることに気づいてしまった。
何も入っていないような、
空白のような感覚。
空っぽになったのは、
何もなかったからじゃない。
きっと、ずっと外に向けて
渡し続けてきただけなのだ。
それでも、生きてきた時間は消えない。
誰かのために使ってきた日々も、
そこに込めた気持ちも、
なにひとつ
なかったことにはならない。
今はまだ、
「自分のために生きる」という言葉が
しっくりこなくてもいい。
ただ、少しだけ
自分の内側に戻ってくる時間を
感じてみるのも
いいのかもしれない。
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